特集 ウイルス感染症
V.臨床ウイルス学
ウイルス学の現況と展望—基礎面
南嶋 洋一
1
1宮崎医科大学微生物学教室
pp.967-972
発行日 1988年10月20日
Published Date 1988/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411200250
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I.はじめに
ウイルスはもともと動物であれ植物であれ病気の原因として見出された。逆にウイルスが病気を起こさなかったら,ウイルスの発見はなかったかあるいはずっと遅れたに違いない。これは現在のウイルス学についてもあてはまる。ともあれウイルス学は1898年Beijerinckによるタバコ・モザイク病の病原体,LöfflerとFroschによるウシの口蹄疫の病原体の報告に始まる。そして1902年Reedらによりヒトの病気としては初めて黄熱がウイルスによって起こることが人体実験によって明らかにされた。
当初,ウイルスは細菌濾過器を通過し,光学顕微鏡で見えない,人工培地には増殖しない,しかし本来の宿主に対しては明らかに伝染性(感染性)を示す微小な生物として認識され,"contagiumvivum fluidum"という名称が提唱された。この"伝染性の液状の生物"という名称にはウイルス学の二つの側面がいみじくも表現されている。すなわち,1)"液状の生物"としての実体の解明。ウイルスとはいかなる生物か(what they are)というアプローチ,そして2)"伝染性の生物"としての病気とのかかわり方の解明。ウイルスはいかなる病気を起こすか(what they do)というアプローチである。
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