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Ⅰ 扁桃炎による皮膚疾患とその経過を起因菌から考える
扁桃病巣感染によりさまざまな皮膚疾患が生じることが知られている。その治療を考えるうえで,皮膚疾患の経過により分類すると理解しやすいことを提唱してきた1)。すなわち,①急性扁桃炎に伴って一過性に生じるもの,②間歇的に反復する扁桃炎に伴って皮膚疾患が再燃しうるもの,③扁桃における潜在性炎症が慢性皮膚疾患をもたらしているものの3群である。例えば,急性扁桃炎に伴って一過性の経過を呈するものに急性汎発性膿疱性細菌疹,急性滴状乾癬があり,扁桃炎に対する抗菌薬が皮膚症状にも著効し,その後再発をみないため,治療は抗菌薬の内服で十分である。これらはA群β溶連菌であるStreptococcus pyogenesによる。急性全身性膿疱性細菌疹,急性滴状乾癬では扁桃よりしばしばS. pyogenesが検出され,抗ストレプトキナーゼ抗体(ASO)が高値となる。間歇的に反復する扁桃炎に伴って皮疹が再燃する疾患には結節性紅斑や多形滲出性紅斑,アナフィラクトイド紫斑病などがあり,やはり抗菌薬を併用することで速やかに軽快するが,反復の頻度や全身症状,関節症状,腎炎の併発などを含めた重症度とQOL障害の程度を参考に,保存的治療で十分か,扁桃摘出術(扁摘)が有用かを判断する必要がある。結節性紅斑ではS. pyogenesの関与が重要であるほか,多形滲出性紅斑,Behçet病の発症初期でも誘因となることが多い。一方,扁桃における潜在性炎症が慢性皮膚疾患をもたらしている掌蹠膿疱症(PPP)では,口腔常在菌であるα-streptococciに対する免疫寛容の破綻が原因であると推測され,皮膚症状や関節症状が重症あるいはQOL障害が大きく,保存的治療で改善しない場合には,扁摘が適応となる。
扁桃炎の起因菌となるこの溶連菌の違いから,宿主の扁桃で異なるタイプの炎症が惹起されるなら,それが皮膚疾患の経過に急性,慢性の違いをもたらすのではないだろうか(図1)。まず,S. pyogenesによる扁桃炎で惹起される急性皮膚疾患の急性滴状乾癬について,皮疹部でVβ2+T細胞が増加していること,これらがスーパー抗原による活性化を示すこと2),末しょう血にもVβ2+T細胞の増加がみられ,これらはCLA+であること3)が示されている。そして,通常の乾癬と比べTregが少なく,IL-17+CD4+T細胞が多いこと,IL-17,IL-6に対する制御が弱いとの報告があり4),S. pyogenesの産生するスーパー抗原がTCR Vβを介して一斉に多くのΤ細胞を活性化しIL-17関連急性皮膚疾患を惹起するとの推測が成り立つ。また,急性汎発性膿疱性細菌疹(Tan)ではIgM,C3の沈着を伴う好中球核破砕性壊死性血管炎がみられるが,同じく好中球核破砕性壊死性血管炎を呈するアナフィラクトイド紫斑病に合併するIgA腎症では,患者の扁桃T細胞をHaemophilus parainfluennzaeで刺激するとVβ6+T細胞が増加すること5)が示されている。Tagamiら6)は補体が活性化されたC5aを皮内注射すると角層下膿疱を生じることを示しており,おそらく,この炎症では補体の活性化も重要で,角層へのC5a,血管へのC3沈着とそれによる好中球遊走が推測される。さらにIL-8の関与がどの程度あるかも検討課題である。
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