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Ⅰ はじめに:アンチエイジング医学とは
わが国において,アンチエイジングという言葉には外見の若さを維持するために化粧品やサプリメントなどによるアプローチを行うものといったイメージが先行しているように思われる。それゆえアンチエイジング(抗加齢)医学というと美容整形や美容皮膚科に属する分野の医学のような印象を受けるかもしれないが,実際のアンチエイジング医学とは,加齢という生物学的プロセスに介入を行い,加齢に伴う動脈硬化や癌のような加齢関連疾患の発症確率を下げ,健康長寿を目ざす医学であり1),多くの医学分野に関連している。
アンチエイジング医学が注目されてきた背景には,研究が進み加齢は細胞生物学的なプロセスの一つとして介入の可能性があることがわかってきたことが大きい1)。また1990年,米国のRudmanら2)によって61~81歳までの健常男性にヒト成長ホルモンを6か月間投与したところ,筋肉重量増加,体脂肪量減少,皮膚厚増加,骨密度増加などの効果が認められたという報告がなされ,これにより老化現象も医学的介入によってコントロールできる可能性が示唆されアンチエイジング医学という分野が始まったといわれている。米国では1993年に米国抗加齢医学会(American Academy of Anti-Aging Medicine:A4M)が結成されたが3),わが国では2001年に日本抗加齢医学会の前身となる研究会が発足,2003年に日本抗加齢医学会となった。同学会の会員数は2011年の時点で7,000名を超えるほどまでに増加した。2006年には初の学会認定専門医および指導医が誕生し,さらにアンチエイジング医学を実践する学会認定施設が北海道から沖縄まで日本全国に誕生している。国外においても米国以外にアンチエイジング医学に関する研究会や学会が各地に発足しており,2003年以降からはanti-aging medicine world conferenceが開催されるなど4),アンチエイジングに関する研究は国内外を問わず盛んになってきている。
わが国では20世紀の間に平均寿命が50歳から80歳まで30歳伸びた。これに伴い国民医療費も年々増加しており,2009年度は36兆67億円となり,前年度の34兆8084億円に比べ1兆1983億円の増加となっている。そのうち65歳以上が占める割合は55.3%と過半数を超えている。高齢化が急速に進む日本の経済的観点からも加齢に伴う疾患を予防し高齢者の健康を維持することが非常に重要になってきている。このため厚生労働省も従来のような疾病に罹患した後に国民皆保険で治療を行うという方針から,疾病が発症する前に介入して医療費を抑制しようという方向に変わってきており,2008年から生活習慣病予防のための特定健康診査・特定保健指導が始まったのは周知の通りである。アンチエイジング医学の目指す目標はこのような時代の要請に応えるものであり,今後ますます重要性を増していくものと思われる。
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