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Ⅰ はじめに
肺炎球菌は,ブドウ球菌とならびヒトに対して病原性の強いグラム陽性球菌であり,感染症原因菌として最も頻回に分離される細菌の1つである。肺炎球菌は厚い莢膜をもった細菌で,莢膜は細胞質で合成された単糖体が重合し,細胞膜転移酵素により細胞表面に移動した多糖体であり,細胞壁のpeptideglycanと共有結合している。その莢膜多糖体の抗原特異性は多様であり,90種類以上もの血清型に分類されている。肺炎球菌はヒトの鼻咽腔,特に幼小児期早期において鼻咽腔に定着し,連続的もしくは同時に多数の血清型の肺炎球菌の定着を20~40%と高率に認め,その後,鼻咽腔への定着率は減少するものの,成人の鼻咽腔においても10%近くに認められる。幼い兄弟が存在する場合や,保育園などに通園している小児に保菌率が高く,成人においては喫煙,気管支喘息,急性上気道炎などが保菌への危険因子と挙げられている1)。しかし,ウイルス感染などのさまざまな要因をきっかけとして,その病原性を発揮するようになる。肺炎球菌が原因となる感染症としては肺炎,中耳炎,副鼻腔炎などの呼吸器関連領域感染症のみならず,侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease:IPD)と総称される髄膜炎,菌血症などの全身感染症などの原因菌として挙げられる。特に市中肺炎では,報告地域や国にかかわらず肺炎球菌が原因菌の第1位であり,わが国においても症例全体の20~30%が肺炎球菌性肺炎であると報告されている2,3)。また成人の髄膜炎症例において肺炎球菌によるものが約30~40%で第1位であり4),小児細菌性髄膜炎においてもインフルエンザ菌と並び肺炎球菌が2大起炎菌の1つとして挙げられる。世界的にはIPDの80%以上を閉める代表的な血清型は20種類であり,主な血清型として14,4,1,6A,6B,3,8,7F,23F,18C,19F,9Vであり,小児において血清型はより限局されており6,14,18,19,23Fが主として挙げられる。急性中耳炎を発症する一般的な血清型は3,6A,6B,9V,14,19A,19F,23Fであり,1,5,7Fは稀とされている1)。耳鼻咽喉科領域としては,中耳炎や副鼻腔炎などが主たる肺炎球菌性感染症であり,急性扁桃炎,急性咽頭喉頭炎などの起炎菌としては少ない。近年,肺炎球菌性急性上気道炎の治療法として多剤耐性菌の出現に伴い,肺炎球菌ワクチンの重要性が認識されている。以下,国内で使用されている肺炎球菌ワクチンおよび今後導入されうる海外で使用されているワクチンについて述べる。
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