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Ⅰ.はじめに
OK-432は溶連菌Su株をペニシリンで不活化したもので,1975年に癌の免疫療法剤(ピシバニール®)として認可された古い薬剤である。発売当初は多くの癌に使用されたが,その後の再評価で適応は大きく制限され,現在ではごく一部の癌に使用されるのみとなっている。しかし長い使用経験の中から,その特殊な作用として,OK-432を癌性胸膜炎や腹膜炎患者の胸腔や腹腔内に投与すると胸水や腹水が減少消失することが知られていた。この性質を利用したのが『OK-432囊胞内注入療法』であり,最初は小児に好発する難治性疾患である囊胞状リンパ管腫の治療として始められた。
囊胞状リンパ管腫は,その本態は脈管系の奇形であり,重要な神経や血管の間に入り込んで存在することが多く,手術成績が悪い(改善率50%以下)きわめて難治な疾患であった。このため,以前からブレオマイシンを用いた硬化療法なども行われてきたが,効果の不確実性や肺線維症などの重篤な副作用が問題となっていた。
1986年,京都府立医科大学小児外科の荻田ら1)は『リンパ管腫が感染を契機に自然退縮する場合がある』ことに着想を得て,囊胞状リンパ管腫症例に対してOK-432の囊胞内注入を試みたところ劇的な効果を得たのが本治療の始まりである。その後,本治療は囊胞状リンパ管腫に対しては『効果が手術より確実で安全である』ことが確認され,現在では日本における小児の囊胞状リンパ管腫の第一選択の治療になり,リンパ管腫治療剤としての保険適応も取得するに至っている。
われわれは1991年に成人リンパ管腫に対して本治療の追試を行いその効果に驚き,1992年からガマ腫などの他の囊胞性疾患に応用してきた。現在,われわれがこの治療の適応と考えている囊胞性疾患は,『ガマ腫』2)『舌囊胞』『口唇囊胞』『囊胞状リンパ管腫』『耳血腫』3)『正中頸囊胞』4)である(『側頸囊胞』は有効率が低くわれわれは適応ではないと考えてきたが,2009年,韓国から58%に有効であるとの論文が出た5))。これらいずれの疾患も診療所レベルでの外来治療が可能であるが,咽頭後壁に及ぶリンパ管腫は治療後に気道狭窄を起こす可能性があり入院管理下に治療するべきである。
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