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Ⅰ はじめに
Deltopectoral flap(DP皮弁)は内胸動脈の穿通枝により栄養される皮膚筋膜弁であり,一般的に第一,第二,第三穿通枝を含めることが多いが,特に第二,第三穿通枝が血流の観点からは重要である。
大まかにいえばDP皮弁は1960年代,大胸筋皮弁は1970年代,そして今日まで全盛である微小血管吻合による自家遊離組織移植は1980年代から一般的となった頭頸部癌に対する再建方法である。今日では多くの症例で遊離組織移植が再建の第一選択となることが多いと思われるが,そのような時代にあってもDP皮弁や大胸筋皮弁は,有用な皮弁として用いられることがある。特に遊離組織移植後の皮弁壊死などの場合では,頸部に良い吻合用血管がなかったり,頸部に感染を伴っていたりで再度遊離組織移植を施行することが困難な場合が多く,DP皮弁や大胸筋皮弁が用いられることが多い。また当院では後ほど示すが化学放射線治療後の再発症例に対する救済手術では,頸部皮膚が線維化により硬く,しなやかさを失った状態になってしまうことが多いためDP皮弁による頸部皮膚の張替え手術を積極的に行っている1)。
DP皮弁の欠点は一期的手術とした場合,三角筋を超えて外側まで皮弁をデザインした場合,先端部分が血流不全により高率に壊死を起こすことである。もう1つの欠点はドナー部分にほとんどの症例で植皮が必要になるという点である。
DP皮弁は1960年代にBakamjianら2)が咽喉食摘後の再建に用いたことを報告して以来,頭頸部癌の再建に飛躍的進歩をもたらし広く知られるようになった。またそのためBakamjian flapと呼ばれることもある。しかしながらそれ以前にもDP皮弁が頭頸部再建に用いられた報告は散見され古くは1917年にAymard3)が外鼻の再建にDP皮弁を用いたことを報告している。さらに1930年代になってJosephらがこの方法について追記している。その後約40年間この方法についてはほとんど触れられることがなかった。これまでの報告とBakamjianらの方法の決定的違いは,Bakamjian以前の報告は茎を外側,つまり肩に位置させていたのに対して,Bakamjianらは皮弁の茎を正中側,つまり胸骨側に置いた点である。Bakamjianらの方法は従来の方法より血流が安定しており安全な方法で,広く頭頸部再建に用いられるようになった。
本稿ではDP皮弁の特徴と安全な採取方法について述べる。
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