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Ⅰ はじめに
1973年にKerrら1)が細胞死に関する形態学的研究を行い,細胞死をnecrosisとapoptosisに分類した。Necrosisは細胞膜の破綻・細胞内成分の細胞外漏出を特徴とした細胞死で広範囲での炎症反応を伴う。一方apoptosisは,細胞の縮小・分断化を特徴とし,周囲の細胞に貪食されるため炎症の波及は起こらない。細胞内シグナルにより厳密に制御される,いわば『プログラムされた細胞死』である。それゆえ1990年代後半になるまで,apoptosisは器官形成や新陳代謝など生理的細胞死に関与し,病的な細胞死にはnecrosisが中心的な役割を果たすと考えられており,apoptosisが病的細胞死においても重要な役割を果たすという認識はなかった。しかしながら近年,虚血病変や悪性腫瘍などでの細胞死にapoptosisが関与することが示され,生理的な細胞死のみならず,病的な細胞死においても重要な役割を果たすことが注目されるようになってきた2,3)。
内耳においては,1985年にForge4)がアミノ配糖体抗菌薬により障害を受けた外有毛細胞が形態学的にapoptosisをきたしていることを初めて示した。Forgeのグループは1995年にもモルモットにゲンタマイシン全身投与を行った結果,前庭有毛細胞がapoptosisとして特徴的な形態変化を示すことを報告した5)。これ以降,内耳におけるapoptosisの存在が注目されるようになり,アミノ配糖体抗菌薬,白金製剤,そして強大音響曝などの刺激に伴う蝸牛有毛細胞の障害はapoptosisと密接な関与があることが次々に解明されてきている6~12)。現在は活性化酸素(ROS),c-Jun N-terminal kinase(JNK),cytochrome c,Bcl-2 family蛋白,caspase-9,caspase-3などのapoptosis経路の解明に伴い,apoptosisの制御が蝸牛有毛細胞の障害予防に有効ではないかと期待されている。
われわれは,Bcl-2 family蛋白の1つであるapoptosis抑制蛋白Bcl-xLに着目した。遺伝子工学的技術を用いてBcl-xL蛋白の活性を強化した蛋白FNKを作製した。このFNKをprotein transduction domain(PTD)であるHIVのtat蛋白の一部,PTD蛋白と結合させて細胞内に導入できるようにした。この融合蛋白をあらかじめ投与すると,アミノ配糖体抗菌薬による有毛細胞のapoptosisをin vivoにおいて抑制させることができた。本稿ではアミノ配糖体抗菌薬による蝸牛有毛細胞のapoptosisについて概説し,PTD蛋白による内耳への蛋白導入方法,アミノ配糖体抗菌薬の耳毒性に対するPTD-FNKの障害予防効果について述べる。
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