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Ⅰ はじめに
口腔癌,咽頭癌,喉頭癌などの頭頸部扁平上皮癌は比較的症例数が多く,それらの治療方針は部位別,病期別にほぼ確立されている。それに対して耳下腺癌の場合,本邦では組織別,あるいは病期別に治療方針が確立されているとはいいがたい。その理由としては,以下の5点が原因と考えられる。
(1)耳下腺癌は,症例数が少ないこと1~8)。頭頸部TMN分類研究唾液腺関係資料1)によれば,わが国の1958年から1997年の40年間に登録された耳下腺癌は1,683例であり,年間約40例の登録しかないことになる。もちろん,多数の登録漏れがあると考えられるが,これまでの本邦の報告からみて,耳下腺癌症例は大学附属病院で年間平均3例程度と推定される2~8)。したがって,例えば50症例の検討をするのにも15~20年の累積が必要となり,その期間,一定の方針で治療を行っていくことは容易ではない。
(2)耳下腺癌は病理組織型が多彩で,それぞれの組織型が特徴的な腫瘍活性を有していること。主な組織型だけでも6~7種類あり,さらに細分化すれば20種類程度に分けられる。しかも,同じ組織型でも,例えば粘表皮癌のように低悪性型から高悪性型まで悪性度が異なるものがある。それぞれの組織型で腫瘍活性や予後は著しく異なり,5年生存率が100%近い組織型から20~30%の組織型まである。
(3)耳下腺癌は,低悪性癌が少なくないこと。そのため,長期の観察が重要で,一施設,一医師の経験から耳下腺低悪性癌に対する適切な治療方針を確立することは不可能に近い。
(4)耳下腺癌は,術前の病理組織診断が困難なこと。今のところ,術前に組織診断を確定する唯一の方法は穿刺吸引細胞診(以下,FNA)であるが,その正診率は低く,20~30%程度である。病理組織型で腫瘍特性や予後が著しく異なる耳下腺癌の場合,術前に病理組織診断を確定することがきわめて重要であるが,それに難渋しているのが現状である。術中迅速診断の成績も良好ではない。
(5)耳下腺癌は,耳下腺内に顔面神経が走行していること。顔面神経が存在しなければ,拡大切除も比較的容易である。しかし,実際には耳下腺内に顔面神経が走行しており,耳下腺癌の進展度,組織型などに応じて顔面神経を切除すべきか,温存すべきかを検討しなければならない。
以上のような特殊性を持つ耳下腺癌であるが,頭頸部扁平上皮癌に比べると注目度が低く,また症例数が少ないため,本邦の一施設のデータでは明確なエビデンスが見出せない。筆者は,以前から耳下腺癌に注目し,一定の診断・治療方針でデータを集積してきたが,それでも過去16年間に経験した耳下腺癌新鮮症例は57例であった(表1)。本邦の報告をみると50症例以上の検討はほとんどなく,現状では海外の多数症例の報告から研究していくしか方法がない。
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