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日本人の耳硬化症症例の多くは,病変が前庭窓周囲に限局し,それに伴う伝音難聴を呈するが,海綿状変化病変が蝸牛全体へとおよんだ蝸牛耳硬化症の場合は,感音成分の低下も伴い,急性感音難聴や特発性進行性感音難聴として治療されてしまうこともある。蝸牛耳硬化症の2症例を呈示し,その特徴を解説する。
症例1
患者:27歳,男性
主訴:数年前からの両側難聴
既往歴:高校1年のとき,近医にて突発性難聴として治療を受けた。
家族歴:父親が耳硬化症にてアブミ骨手術を受けている。
所見および経過:聴力は,低音域を主体にA-B gapを認めた(図1)。CT検査では,両側卵円窓部のプラーク(海綿骨増殖像)に加え蝸牛周囲の広範な脱灰像がみられた(図2)。鼓膜を透して,鼓室岬角が充血のため紅色を呈する所見(Schwartze徴候)が明瞭に観察され(図3),耳硬化症の活動性の高さを示す所見と考えられた。この症例で,われわれは岬角の拍動性血流を観察している。経過中,めまいを伴う左低音域の骨導低下が生じ,内リンパ水腫の合併と診断した。イソソルビドとATP製剤の内服治療にてめまいの消失,および聴力の改善を認めた。希望があれば,低音域の聴力改善を目的にアブミ骨手術を予定している。
症例2
患者:48歳,女性
主訴:両側難聴
既往歴:胃十二指腸潰瘍
所見および経過:10年前の検診で難聴を指摘された。治療により,ある程度反応する両側聴力の変動があり,5年前に当院へ紹介された。聴力検査では,両側の感音難聴を認め(図4),MRI検査では両側内耳道に3mmの腫瘤の可能性を指摘され(図5),聴神経腫瘍の疑いとして定期観察を行っていた。聴力レベルの悪化がありCTを撮影したところ,蝸牛周囲の広範な脱灰像がみられた(図6)。内耳道内への骨新生病変もみられ,これらがMRIにて淡い造影効果のため腫瘤と指摘された可能性がある。この症例の鼓膜所見でも,症例1ほどではないが,Schwartze徴候が認められた。今後,両側感音成分の低下がさらに進行すれば,人工内耳埋込術も考慮すべき必要性がある。
蝸牛耳硬化症例では,感音成分の低下が主体のことも多く,メニエール病様の急性感音難聴を呈することもある。MRI検査のみでは見逃してしまい,CT検査にて初めて耳硬化症と診断されることもある。アブミ骨手術や人工内耳埋込術を考慮する際,このような感音難聴例に対して蝸牛耳硬化症の鑑別診断は必要である。
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