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聴覚障害の基礎知識から補聴器の基礎理論,エビデンスに基づいた処方まで,1冊で「補聴器学概論」と「補聴器の実際」が学べるHarvey Dillon著“Hearing Aids”が,このたび,『補聴器ハンドブック』として医歯薬出版株式会社から和訳出版された。Harvey Dillonはオーストラリア国立聴覚研究所の研究部長で,大学院で聴覚学の教鞭をとる傍ら,長年にわたり補聴器の理論的で実用的な装着手順の研究をしてきた「補聴器学」の権威者である。
本書は「実際に役立つことと理論的に聞こえるようになること」の2点を最重要課題として,ひとりの著者が一貫して執筆している。第1章の「補聴器を理解するために」から始まり,第2章「補聴器構成部品」,第3章「補聴器システム」,第4章「電気音響的性能と測定」,第5章「イヤモールド,イヤシェル,カプリングシステム」,第6章「補聴器に使用される圧縮システム」,第7章「補聴器の信号処理方式」,第8章「補聴器装用候補者についての評価」,第9章「補聴器の処方」,第10章「補聴器の選択と調整」,第11章「補聴器の微調整とトラブルシューテイング」,第12章「新規補聴器装用者へのカウンセリング」,第13章「聴覚リハビリテーション効果を評価するために」,第14章「両耳装用とフィツティング」,第15章「小児特有の装用上の課題」,第16章「CROS補聴器・骨導補聴器・埋め込み補聴器」と全16章に補聴器に関する全てが網羅されている。400頁を超える成書で,「補聴器の専門書」のイメージを描くかもしれないが,実際には非常に読みやすく,これから補聴器を学びたい人の「入門書」としても十分活用できる。和訳のタイトルを「補聴器ハンドブック」としたのもその理由であろうが,理解しやすくするために種々の工夫が盛り込まれている。そのひとつは図・表を多く用いていることである。そして,各章の最初に「概要」があり,本論では重要な部分に「網かけ」をし,詳細なコメントは「実践的内容」と「理論的内容」に分けてパネル形式(囲み記事)で示している。すなわち,入門的に大筋を知るには各章の「概要」だけを,詳しく知りたいときは「網かけ」部分を,より実践的なコツや理論的な知識を得たいときは脚注やパネルで囲まれたセクションを熟読するといった具合である。また,本書が読みやすく,理解しやすい書となっているもうひとつの理由は,監訳者の中川雅文氏をはじめ各分担者がそれぞれのエキスパートであり,内容を十分に理解したうえで,読者が理解しやすいように上手に翻訳していることである。ほとんどの読者は,中川氏が「原著のおもしろさに学会そっちのけで読みふけった」と同様に,本書の理路整然とした豊富な内容に惹きつけられ読み進んでいくであろう。
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