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最近,外耳道の真菌症についての症例報告を書いた。このとき使った白黒写真は,カラースライドをデジタル処理して若い人につくってもらったが,予想を上回るでき栄えであった。コンピュータの知識だけで見事な写真をつくれることに驚き,時代の変化を改めて感じた(組織像が“つくれる”という感じもして,少し怖い気もしているが)。耳の組織や病理に長年関心があり,報告をいくつか書いたが,論文の良し悪しの評価には,添付される組織写真の質が大いに関係する。したがってよい写真をつくることに長年腐心してきたので,そのことを書いて責めを果たしたい。螢光抗体法などでは華麗な色彩の世界が写されるのに,これは白黒写真の話で色気がないが,お許し願いたい。
耳の組織病理写真の代表的なものは,側頭骨の連続切片の写真だろう。高倍率の写真は,優秀な顕微鏡の進歩で比較的簡単に撮れるが,蝸牛や前庭が全体に入るような低倍率の写真の撮影はかなり難しい。レンズに長い蛇腹をつけ,フィルムを装着して撮るのが一般的で,筆者が帝京大学にいた頃はニコンのマクロ撮影装置を使っていた。金属棒で組んだ頑丈なステージに,レンズ,蛇腹,4×5インチの大判のフィルムを装着する大きな箱が垂直に付けられていた。Harvard大学Massachusetts Eye & Ear InfirmaryのSchuknecht教授のところでは,水平に長く配置された特別の撮影装置をつくり,著書“Pathology of the Ear”(2nd ed, Lea & Febiger, 1993)のなかにその装置の写真が紹介され,Arthur Bowdenという写真技師の名前も挙げられている。写真の作製にかかわる人や器具がいかに重視されていたかがわかる。
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