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外傷性白内障traumatic cataractには穿孔性眼外傷によるものと鈍的眼外傷によるものとがある。中でも鋭利な金属片やガラス片などが角膜や強膜を穿孔した際に水晶体を損傷して発症することが多い。臨床所見は,前嚢下混濁や後嚢下混濁など多様である。組織病理学的には,混濁部に水晶体細胞lens cell (水晶体線維lens fiber)の膨化や液化が認められる。ヒト水晶体と動物モデルのそれとは,水晶体の形,着色度,核の硬化度,核周囲帯の存在(図1)など構造的および機能的に幾つかの違いはあるが,基本的構造は両者の間で同じである。そこで,実験的にマウス水晶体を針で経角膜的や経強膜的に損傷して起こした外傷性白内障の経時的発症経過を記す。
まず,水晶体前面を浅く損傷した場合には,損傷部周辺の水晶体上皮細胞lens epitheliumが増殖する。これが外方に突出した水晶体細胞と皮質内部の損傷された水晶体細胞の両方を除去して創傷が治癒する(図2)。しかし,損傷部表面には瘢痕組織が残存する。損傷が核周囲帯に達する深いものでは,急速に成熟白内障まで進行する(図3)。この場合,後嚢下がまず液化し,後縫合が解離して核周囲帯の後極側から前方に混濁が広がる。後嚢下に液化が発生する理由として,前方の損傷部からの房水浸入が考えられる。水晶体に色素を注入してその移動を調べると,核が硬化するマウス水晶体では,色素は核を迂回する傾向がみられる(図4)。核が硬化しないイヌやネコの水晶体では,色素は水晶体前面から核を貫いてほぼ直線的に後嚢側に到達する(図5)。損傷面積が大きくなるにつれて,後嚢下に液化が発生し,後嚢側から混濁が発生するしかし,損傷面積をさらに拡大すると,前嚢下が液化して,前嚢側から混濁が発生する(図6)。すなわち,液化の発生部位が混濁の発生部位と密接に関係する。側面損傷では,損傷部が赤道部に近ければ近いほど,水晶体細胞へ十分に分化していない水晶体上皮細胞が後極側に移動し,水晶体構築が障害され,白内障の進行が加速される。後面損傷では,外方に突出した水晶体細胞は,細胞自身の萎縮により緩徐に縮小する(図7)。しかし,皮質内部の損傷痕は全く修復されず,これが後皮質表層の水晶体細胞の伸展を阻害し,前皮質が異常に肥厚する。このために水晶体核が後嚢側に移動し,核周囲帯が後嚢に触れて混濁する。後嚢側では水晶体上皮細胞が存在しないので,修復機序が極めて微弱で,皮質内部には損傷痕が長期間残存する。
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