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ウシの眼球は角膜も強膜も大きいが,水晶体も非常に大きい(図1)。ウシ,ウマ,ブタなどの有蹄類ungulatesやその他の動物では,虹彩根部から角膜周辺部に伸びる虹彩の櫛状靭帯pectinate ligament of the irisが存在する(図2)。櫛状靭帯は,虹彩根部から伸びる太い虹彩突起があたかも櫛の歯のようにみえるので,その名がある。これらの動物では,毛様体筋が十分に発達していないために櫛状靭帯があり,それが虹彩根部を角膜周辺部に固定し,大きな水晶体を毛様体ひだ部で堅固に支持する。櫛状靭帯の表面は細胞で覆われて,しばしば虹彩の色素細胞を伴い,角膜の内皮細胞およびデスメ膜に伸びている。櫛状靭帯の後方には櫛状靭帯よりも細かな虹彩突起によって区分された間隙があり(図3),これをフォンタナ腔Fontana'sspaceあるいは毛様体裂ciliary cleftという。さらにその後方には,細網状の網細工reticular meshworkがあり,これがヒトやサルなどの霊長類primatesの線維柱帯trabecular meshworkに相当する(図4)。Reticular meshworkと強膜の間に隅角房水叢angular aqueous plexusがあり,これがシュレム管に相当する(図4)。櫛状靭帯やreticular meshworkの実質は,虹彩実質と同様に,アルシアンブルー染色が陽性で,プロテオグリカンを含む(図5)。ウシ隅角のreticular meshworkの角強膜網は抗α-smooth muscle actin抗体に陽性で,毛様体筋由来であることを示唆する。
ヒトでは,胎生6ないし7か月までは櫛状靭帯の痕跡が認められ(図6),それ以後消失する。したがってヒトでは,櫛状靭帯に類似した太い虹彩突起がみられる場合は,前房隅角の発育が不十分であることを意味する。この場合,線維柱帯の発育も不十分である。臨床的には,未熟児や神経堤細胞関連の前眼部間葉異発生anterior segmentmesenchymal dysgenesisでこれがみられる。櫛状靭帯に類似した背の高い多数の虹彩突起そのものは房水流出の障害にはならないが,その存在が隅角組織の形成不全を意味し,発育異常緑内障を起こしやすい。
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