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眼瞼に発生する皮膚悪性腫瘍の一つにメルケル細胞癌Merkel cell carcinomaがある。メルケル細胞癌の概念は,1972年にTockerが発表したtrabe-cular carcinoma of the skinに始まる。その後電子顕微鏡による観察で,腫瘍細胞の細胞質に神経内分泌系細胞に特有の暗調の顆粒が発見され,表皮のメルケル細胞が起源と考えられるようになった。メルケル細胞は,表皮の基底および毛髪の外毛根鞘に存在し,触覚に関係する圧受容細胞である。神経内分泌細胞様の顆粒を持つとともに,細胞の基底膜側には神経終末が付着している。メルケル細胞癌は,高齢の女性に多く,顔面と四肢に好発する。眼瞼では上眼瞼に多い。眼科領域では,1983年以来世界で数十例の報告がある。
メルケル細胞癌は,肉眼的に鮮やかな紅色を呈するのが特徴である。正常のメルケル細胞は表皮に存在するが,メルケル細胞癌は真皮浅層に発生して表皮を押し上げ,ドーム状の隆起を形成する(図1)。腫瘍を覆う表皮は萎縮して菲薄化するが,通常腫瘍が表皮に浸潤することはない。腫瘍塊は大型円形の核を持ち,細胞質に乏しい腫瘍細胞が密に増殖する(図2)。一見リンパ腫に類似するが,免疫組織化学的にケラチンが陽性である。ときに腫瘍細胞が数珠状に連なって見えることから,trabecular carcinomaの名がある。電子顕微鏡で,腫瘍細胞内に,膜に囲まれた直径100〜150nmの暗調穎粒(メルケル細胞穎粒)が観察される(図3)ことが診断上もっとも重要であるo免疫組織化学的にNSE (neuron specific enolase)の陽性率が高い(図4)。その他,Grimelius染色,neurofila-ment,chromogranin,synaptophysinなどの神経内分泌系細胞のマーカーも診断の補助になる。
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