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1.輪部腫瘍とHPV
涙道を含む限表面の扁平上皮腫瘍は良性乳頭腫,異形成病変,上皮内癌,浸潤癌に分類される。婦人科1),泌尿器科2)など,他領域の扁平上皮腫瘍の一部にはヒトパピローマウイルス(以下,HPVと略す)が関与することが明らかになってきた。良性乳頭腫と異形成病変および癌ではHPVのタイプが異なっており,良性乳頭腫ではtype 6および11が,異形成および癌ではtype 16,18,31,33などが関与していることが報告されている3)。一方,眼科領域においても主に海外の研究で同様の結果が得られている4)。
筆者は慶應義塾大学眼科を受診したオキュラーサーフェスおよび涙嚢の扁平上皮腫瘍17例(うち輪部腫瘍は3例)についてHPVの感染を検索した。輪部に生じた腫瘍(図1)と結膜に多発する腫瘍(図2)の前眼部写真を示す。腫瘍が悪性か良性かはもちろん病理組織学的な検索を施行しなければ判断できないが,若年者の結膜に多発する図2のような症例はウイルスが関与する良性乳頭腫の典型例であるとされている。筆者はこれらの症例をまずヘマトキシリン-エオジン染色(H-E染色)で良性,異形性病変,癌に分類し,koilocytosisの有無,免疫組織染色,in situhybridization,PCRの4つの観点からHPVの感染を検索した。図3に典型的な良性乳頭腫,異形成病変,浸潤癌のH-E像を示す。Koilocytosisは従来ウイルス感染例において見られるとされる所見であるが,17例中7例で陽性であった。またウイルス蛋白の存在と局在を判断できる免疫組織学的検索では8例が陽性であり(図4),ウイルスのDNAの存在を確認するin situ hybridizationとPCRではそれぞれ4例,8例が陽性であった(図5)。
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