昨日の患者
高齢者への手術
pp.138
発行日 1993年10月30日
Published Date 1993/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410901922
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最近,筆者が行った手術例で,今まで既往歴のない大変丈夫な100歳の患者に眼内レンズ挿入術を施行する際に,思いがけぬ問題に遭遇した。100歳という特に高齢者のため,術中の全身管理を充分にするため,麻酔医の協力を得たことは言うまでもない。しかし手術室における患者の不安はことのほか大きく,術開始20分前後位に起き上がろうとし,覆布を取り払おうとする行動があり,危険な状態となった。その理由として,日常多くの家族に囲まれているのに,手術室では1人ぼっちであり,窓のない手術室,冷たく鈍く光る周囲の壁,器械類,マスク手術衣を着用した医師ら,重苦しい雰囲気などすべてが不安材料となり,SF映画で見る宇宙船内に入った感じで,どうなることかと心細く逃げ出したい衝動にかられ動いたとのこと,ききわけのない幼児のごとくで予期せぬことであった。
2回目は患者の信頼できる家族に,術中手を握らせ絶えず1人でないことを認識させたところ,不安なく手術ができた。したがって,単に医学的管理のみならず,ききわけのよい高齢者でも100歳ともなると精神的看護に留意し,日常生活の延長上に近い状況下で手術をするよう,心掛けたいと反省した。
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