昨日の患者
私の教科書
pp.135
発行日 1993年10月30日
Published Date 1993/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410901920
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開業まもない頃,小眼球の白内障手術をした。残留皮質と硝子体が混ざり,結果は不良で,患者は術後数年,私をなじり続けた。落ち度はないと思ったが,天の声と思い,他の患者の面前で非難を聞き続けた。ある日,外来で声高な非難を聞く私の背後に突然影がさした。それは,脱サラでレンタカー会社設立のために全財産を投入し,自身もバス運転免許獲得のために当時未知だったIOL手術にすべてをかけた人だった。結果は良好で会社運営も順調に行った。その人が待合室から飛び出してきて,非難する患者を蹴ったのだ。倒れた患者に付添の子がしがみつき,すべてを吐き出すように激しく泣いた。以後十数年,その想いは心にしみつき臨床家としての私の教科書となった。
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