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新元号に改まって2年目を迎えた今年,平成時代の30年を振り返って,眼科医療の進歩だけを取り上げても刮目すべきものが多々みられます。特に各種眼疾患に対する画像診断や治療法には格段の進歩がみられ,平成初期には全く予想されていなかった診断法や薬物治療法,そして手術治療法が開発されて実践されてきました。しかし,それらの進歩によってもなお,有効な治療法が見いだされていない疾患や,視覚障害という後遺症を残してしまう患者はいまだ数多いのが現状です。特に平成12年の日本ロービジョン学会の設立を契機として,視覚障害を抱えながら社会生活を送ることを余儀なくされている患者の診療も眼科医療が積極的に担当するべき大きな分野であるとして日常臨床を担う眼科医の間でも認識されてきています。しかし,ロービジョンケアと一口に言っても,その実践のノウハウはこれまで眼科医が研修を積み上げてきた眼科医療の特に治療的側面とはやや趣を異にしているため,主として眼科治療のために多忙な日々を送る臨床眼科医にとっては,その必要性は認識しつつも実際には扱いにくい分野であることも否定できません。
このような理想と現実との乖離を認識しつつ,ロービジョンケアの需要に少しでも眼科医が応えられるような社会を実現するためには,日本中の眼科医が患者に提供できる「引き出し」の数を少しでも増やす努力をし続けることが求められるのではないかと思われます。単なる情報提供であっても,それを契機に患者がロービジョンケアの存在に気づき,自ら積極的にさまざまな制度や補助具を利用する方向へと動き出せる例も経験されます。その「引き出し」にはどのような種類があるのか,その現時点におけるスタンダードをタイムリーな「勘どころ」として一覧するために今回の特集は企画されました。
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