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臨床眼科3月号をお届けします。「今月の話題」では,東北大の西口康二先生による詳細なレビュー,「ゲノム編集遺伝子治療と眼疾患への応用」を取り上げました。CRISPR/Cas9という聞き慣れない用語が出てきますが,実はこれが現在の生物学,生化学,遺伝学,遺伝医学をはじめ農畜産学や軍事関連に至るまで生物に関連したあらゆる分野で大トピックとなっている物質(ツールとも言えます)です。もともとは細菌がバクテリオファージの感染に自ら対抗するために自然に編み出した一種の獲得免疫機構なのです。CRISPR/Casはかつて感染したファージDNAを認識していて,再感染があったときに発現してファージDNAを切断して不活性化するというシステムです。これを今では科学者がCRISPR/Cas9を用いて任意の動物(ヒトを含む)のゲノムDNAを切断して取り除き,それに代わる別の塩基配列を組み込むことができるようになったわけで,これをゲノム編集と呼び,理想的な遺伝子治療への可能性が開かれたことになります。しかし,倫理上の問題からヒトの生殖細胞でのゲノム編集は認められていません(お隣の某大国ではすでに行ったということですが)。バクテリオファージは地球上で最も個体数が多く,その数たるや実に1031個(日本語では1,000穣個)で,細菌の数よりも多いとのこと。さらに,地球上では毎秒1024回の感染が起こされており,海中だけでも毎日全細菌の40%がファージ感染によって死滅しているそうです。人類が発生する遥か以前の太古の昔から細菌とバクテリオファージとの熾烈な戦いは存在していたわけで,つい最近になってわれわれ人間はやっとそれに気づいて,さらにそれをさまざまにうまく利用しようとしているという状況なのです。眼科学でも現在は動物実験のレベルですが,数年すればCRISPR/Cas9を用いた遺伝性疾患の治療法が臨床応用されるであろうと思われます。そのときに備えて,私たちも一般的な教養としてゲノム編集やCRISPR/Cas9などの術語を身につけておきたいものです。
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