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わが国の神経眼科学の第一人者である三村治教授による単著,『神経眼科学を学ぶ人のために』が上梓された。私が知る限り,これほどわかりやすく親切に書かれている神経眼科の教科書はない。眼科は基本的に形態学であり,病変を見ればだいたいの見当がつく。最近ではOCTのおかげで,診断は格段にらくになった。一方,神経眼科では,病変は検眼鏡では見えず,機能の異常であることが多い。このため訴えを注意深く聴取し,機能異常を分析的に観察し,視野やMRI,さらに遺伝子などの諸検査を適切にオーダーしなければならない。診断に至るには幅広い神経眼科の知識による推察が必要である。神経眼科が敬遠されるゆえんであろう。本書はタイトルが示すように,著者が長年の経験と知識を若い人たちに語りかけるスタイルを取っている。重要な点は太字で強調してあり,著者の意気込みが伝わってくる。
本書は9章から構成されている。第1章は解剖と生理である。眼球運動には衝動性と滑動性追従運動があり,前者は「随意的眼球運動の大部分を占める急速な眼球運動で,……反射的にみられることもある」,後者は「移動している指標を常に網膜の中心窩に保つために生じる滑らかな運動」と明快に説明されている。第2章は診察法である。問診は発症状況,疼痛の有無,日内変動と発症後の経過,家族歴,手術歴をさまざまな可能性を考えながら聴取する。視診は極めて大切である。歩行状況,頭位,顔貌・容貌,眼球突出度,眼瞼の状態を注意深く観察する。その後,眼位と眼球運動を検査する。本書の知識を活用すれば,問診と視診だけで診断をかなり絞り込むことができるだろう。第3章は視神経・視路疾患である。視神経に腫脹をきたす疾患には,乳頭腫脹,うっ血乳頭,視神経炎,視神経周囲炎,乳頭血管炎,虚血性視神経症がある。乳頭腫脹(disc swelling)は「視神経乳頭が境界不鮮明となり隆起している状態」を指し,さまざまな原因からなる。そのうちのうっ血乳頭(papilledema,choked disc)は頭蓋内圧亢進による乳頭腫脹を指す。英語表記に注意が必要である。視神経炎は抗アクアポリン4抗体陽性など新知見が満載である。第4章から第7章は眼球運動障害,眼振・異常眼球運動,眼瞼の異常,瞳孔異常をきたす疾患など神経眼科の神髄とも言える分野である。MRIが欠かせない。第8章は眼窩に異常をきたす疾患で甲状腺眼症,感染,骨折を扱っている。第9章は全身疾患と神経眼科である。本書にはClose Upというコラムが38項あり,最新のトピックや診断のコツを扱っており,大変役に立つ。
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