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視覚障害者指導の必要性
湖崎 克
1
1大阪市立小児保健センター眼科
pp.226
発行日 1969年2月15日
Published Date 1969/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410204021
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ここ10年の間の眼科臨床の進歩は誠に著しいものがある。多くの研究者,臨床医家はこの新らしい知識を持つて,それぞれの得意の分野で患者に立ち向かつている。
筆者もその例にもれず,10年ほど前からわが国に始まつた弱視治療を手がける人たちの仲間入りをして,大学の外来にそのクリニックを作り,その治療の必要性を人ごとに説いてきた。大阪では弱視治療は,当時では筆者1人であつたためか,珍らしがられたが,新聞に「弱視は治る」「弱視を治そう」といつた具合に何回も紹介された。当然の帰結として,患者が外来を大勢訪れてきた。この患者がすべて筆者の思わくどおり,治療対象の弱視なら問題はないのだが,従来から弱視という概念はpartial sightednessとして,視覚障害の程度として長い間一般通念となつていた。そのため熱心に外来にやつてきた障害児は,視神経萎緒,小眼球,眼球振盪といつた弱視治療のまつたく対象とならない小児ばかりで,新聞記事をみて,いつたんあきらめた希望を再び燃やして,外来診療室にやつてきた母親に,治療の手段のないことを宣告した筆者は,まつたく人騒せな,酷なことを新聞記事に提供したことになる。再び涙にくれる母親を前にして,医学の無力さにがく然としてしまつた。
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