談話室
ボンの麻酔医の話
岩田 和雄
1
1新潟大学
pp.393-394
発行日 1963年3月15日
Published Date 1963/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410202687
- 有料閲覧
- 文献概要
麻酔医は縁の下の力持ちである。誰もその重要性を知つており乍らもその有難味を忘れ勝ちである。但しこれはボンの話しであつて,日本の話しではない。日本では夫だその有難味を忘れる程には麻酔医の恩恵を被つていないし,その必要性が強く要望されている段階である。勿論眼科の領域に於てのことである。麻酔の巧拙が手術の鍵を握つていることは今更論ずるまでもないし麻酔の進歩が又手術の適応範囲を拡めることも明らかである。
ボンの眼科では太つて愛嬌のあるDr.Drugeが全身麻酔に関する一切を引きうけているが,このDr.の手にかかると,年寄りも子供も赤子もまるで魔術にかかつた様にいつの間にやら麻酔にかかつて,手術が済んで,何事もなかつたかの如くに麻酔から醒めてゆくのである。術者は思うがままにまるで死体に手術を加えているかの如く,眼のこと以外は何にも考えず,手術が終るとさつさと帰つてしまう。整形手術を得意とするWeigelin教授などは全麻のもとで予定の2時間が4時間を越えようと,何時間を必要としようと何等意とすることなく自分のペースで気のすむまで悠々とやるのである。私はこの1年間何等子供の泣き声,ワメキ声,麻酔事故,覚醒時の興奮など見たことも耳にしたこともないし,長時間の手術中でも麻酔の不安定等で患者が動いたりしたのを見たことがない。
Copyright © 1963, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.