特集 眼科臨床の進歩Ⅰ
妊娠中毒症と眼
田野 良雄
1
1兵庫縣西脇市田野醫院
pp.931-937
発行日 1952年11月15日
Published Date 1952/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410201327
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妊娠中毒症のうち,妊娠初期の惡阻に際し認められる眼症状を別として,妊娠後半期及分娩,産褥期に於ける妊娠腎,妊娠腎臓炎,子癇前症,子癇及び常位胎盤早期剥離に際して認められる眼症状,殊に眼底變化は周知の樣に全身並に眼の診斷,豫後及び治療の上から重要である。(茲に妊娠腎臓炎と呼ぶのは既往に腎炎を經過したもの,又は既往妊娠に際し妊娠腎又は子癇のあつた經産婦で,慢性腎炎が多少共存在したと思われる婦人が妊娠したために起つたもので,「慢性腎炎+妊娠腎」と考えられる疾患である。)
正常妊娠末期に於ても眼底検査に依り多少共網膜中心動脈狹細,ザールス氏靜脈交叉弓,乳頭周園混濁等が認められることが多い。妊娠中毒症の際には其の程度が更に著明であり,網膜中心動脈狹細及びザールス氏靜脈交又弓は特に重要である。網膜中心動脈狹細は其の全般に亙ることもあり,部分的狹細(一枝又は數枝の狹細,末梢部狹細,或は管腔の不平等)が認められることもある。之等に就てはMylius,植村,Wagener,Sc—hultz & O'Briep,Gibson.氏等の報告がある。其他動脈の蛇行,分岐角が大となり直角叉は鈍角になれるもの,動脈壁の混濁,血柱反射増強等が認められる。之等網膜動脈所見の一部は機能的變化(痙攣)であり一部は器質的變化(血管硬化)によるものであるが,兩者を區別することは分娩後の恢復状況等の經過を觀察しなければ容易ではない。
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