綜説
網膜の特殊構造
宇山 安夫
1
1大阪大學環研
pp.479-483
発行日 1951年8月15日
Published Date 1951/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410200905
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網膜の生理,化學方面の研究は,近來頓に活况を呈しているのに較べて,解剖及び組織學の面に於ては,今世紀の初頭以來餘り見るべき進歩を示していない。其原因には種々あげられるであろうが,元來網膜は光刺戟を感受する部分と,其刺戟を中樞へ傳達する部分とから出來ている。即ち光感覺と傅達との装置が,あの薄い1枚の綱膜の中に壓縮されて存在しているのである。從つて他の感覺器と同樣に,網膜の主要なる部分は,光感覺の部分で,傳達の部分は其重要さに於ては,寧ろ從と考えられ易いのである。從來人々の注意が専う光感覺部,即ち視細胞の部に向けられ,生理,化學の面から其機能を明かにしようとして,此方面の進歩を促したことは否めない事實である。
然しながら綱膜は,他の感覺器,例えは皮膚の知覺などゝは著しく異なり,知覺された刺戟が,共儘知覺神經によつて中樞に傳達されるのではなく,刺戟が網膜を離れて視束に移るまでには,幾つかのノイローンによつて,極めて複雑な經路をとつていることは衆知の如くである。從つて網膜内に於ける傅達装置の研究の重要さは,感覺装置の重要さに較べで決して優劣はないのである。
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