温故知新
菅沼定男教授の思い出
加藤 謙
1
1荻窪病院眼科
pp.266-267
発行日 1949年6月15日
Published Date 1949/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410200393
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菅沼定男先生の思い出としては既に桑原助教授の懷しみ溢るる充實した文章が「臨床眼科」第1卷第1號に載せられている。從つて今さら私が蛇足を加える何ものもない。然し私にとつて先生は一つには醫局に入つた許りの頃眼科の「いろは」を導き教へて下さつた老教授として,二つにはあの明治大正を盛期とする臨床醫學の浪漫的零圍氣を一言一行に發散せられた眼科學の先達として,今も懷しき思い出の恩師である。私が茲に桑原助教授とは異つた觀點から,醫學生として或は新入醫局員として,仰いだ師の面影のいくつかを描いて見ることも強ち徒爾ではないような氣がするのである。
先生の第一印象__先生の第一印象は,先づ先生の御著書を通じて,先生のお人柄を想像したことに始まる。學生として「新撰眼科學」上下二卷を手にして最初に感じたことは,この眼科の先生は並々ならぬ良心的な人だと言うことであつた。諄々として説かれた冷靜で解り易い記述,口語文の採用,鮮明精緻な着色圖譜,良質の紙,堅牢な製本。そのどれ一つをみても著者の並々ならぬ學的良心が,隅々まで浸透しているように感ぜられた。先生に初めて接したときの第一印象はこの書物から受けた印象を裏切るものではなかつた。今でも母校の同窓生が集まると,菅沼先生は「眞にProfessorらしいProfessorだつた」と言う點で誰の意見も一致するようである。
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