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はじめに
未熟児網膜症(retinopathy of prematurity:ROP)は,主として出生体重1,500g未満の極低出生体重児(または極小未熟児)や,そのなかでも1,000g未満の超低出生体重児(または超未熟児)に発症しやすく,小児の重篤な視覚障害の原因疾患の代表である。網膜血管は,胎生期に視神経乳頭に存在する血管芽細胞から徐々に血管内皮細胞が分化し,分裂と増殖を繰り返しながら網膜周辺部へ向けて伸展する。乳頭から鼻側は比較的距離が短いので胎生32週ごろまでには網膜血管は最周辺部まで到達するが,耳側は比較的距離が長いため36週ごろまでかかってしまう。したがってこの時期より早く出生した場合は,網膜血管は最周辺部まで到達しておらず出生後にさらに伸長する必要がある。生理的にこの網膜血管の発達を促すのが血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)であり,通常,分化・発達しつつある血管の先端部に位置する内皮細胞から分泌され,その濃度勾配に反応してさらに血管が伸長する。
一方,早産で出生した新生児は呼吸不全や貧血などで全身の低酸素状態であることが多く,酸素投与が必要となる。このため,酸素投与中は網膜も相対的な高酸素状態となり,酸素による血管収縮が起こるが,網膜自体の酸素需要は物理的に賄えられるため,VEGF分泌は抑制され網膜血管の伸長も停止する。問題は酸素投与が終了した後であり,網膜血管が収縮した状態で空気呼吸に移行すると,血管がまだ完成していない網膜(無血管帯)は相対的な低酸素状態となる。よって無血管帯からはVEGFがさかんに合成・分泌されることになる。このため,いまだ未熟な網膜血管にVEGFシグナルが過剰に加わり,場合によっては硝子体中への過剰な血管増生(Stage 3以降,図1)から牽引性網膜剝離の発症という予後不良なROP(Stage 4以降)へと進展する危険をはらんでくる。
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