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はじめに:遺伝カウンセラーの倫理的態度とは
倫理観は人格の一部である。人間は一人一人の個性が違うように,倫理観も一人一人異なっている。ロジャースのカウンセリングではクライエントがカウンセラーの倫理観に影響されながら自律的に判断を下すが,決してカウンセラーが自らの倫理観をクライエントに押しつけてはならない。しかし,遺伝カウンセリングは医療カウンセリングであるから,「好ましい方向」へクライエントを誘導したい。「好ましい方向」がEBM(evidence-based medicine)に基づいた医療思想,社会通念や法律に基づいているべきであることは,これまでに何度も強調した。このためには遺伝カウンセラー一人一人の倫理観が異なっていても,ある程度の共通した基本的態度は必要であろう。「基本的な倫理的態度」をどう学ぶかということが今回の連載のテーマである。
結論から先に申しあげると,「……は好ましい」「……はよくない」と価値判断をそのまま学ぶことは好ましくない(それこそ,倫理原則に反する。倫理原則に反した教育は学習者に拒否される)。倫理的な考え方,もう少しはっきりいうと,「倫理分析」の手法を学ぶのがよいと考えている。カウンセリングの技術論からも,クライエントの倫理観をそのまま受け入れ分析してみることは,クライエントの決断や行動を理解し予測することに役立つ。教育する立場からも,学習者の倫理的判断を「その考え方は間違っている」と指摘するよりは,「なぜ,そのように考えるのか」を分析させることにより,もっと違った考え方があることに気づかせることができる。いろいろな倫理観を持ったクライエントを相手にする遺伝カウンセラーにとっては,この技術を学ぶことが重要である。最も重要な遺伝カウンセラーの倫理的態度は,クライエントのさまざまな倫理観を受け入れ理解する態度である。遺伝カウンセラーの基本的な倫理的態度は,このような倫理学習により結果的に備わってくるのではないかと考えている。そのため,筆者は倫理学の講義で最初から倫理ガイドラインの類いを暗記させるようなことはしない。偏狭な倫理観に凝り固まった遺伝カウンセラーはクライエントにとって迷惑そのものだからである。
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