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はじめに
今回は「説得」の技術を紹介する。紹介する技術は心理学的に裏づけされたものが多く,現代社会ではセールスの現場をはじめいろいろな場面でよく知られたものである。
誤解されては困るが,「説得」の技術を遺伝カウンセリングの現場でも積極的に応用してほしいというわけではない。もともと,遺伝カウンセリングは,クライエントに役立つ情報を提供し,クライエント自身で自律的に選択できるように援助する過程である。「自律的な選択」を重視し,無理な「説得」は禁物なのである。もしクライエントが明らかに好ましくない選択をしようとしている場合は,カウンセラーは「共感的な理解」によって,クライエントがなぜそのような選択をするのか背景を探り,周囲の環境を調整することにより好ましい選択に導くというのがロジャースのカウンセリング技術の基本である。無理な「説得」はカウンセラーの独善的な意見をクライエントに押し付け,クライエントにとっては大きな迷惑となる。遺伝カウンセリングと違って,一部のキャッチセールスなどのセールス現場における「説得」は,必ずしも購入者の利益を目的に行うものではない。セールスにも倫理はあるだろうが,購入者に一時的な錯覚を起こさせ,「その気にさせる」のが目的の場合も少なくない。
しかし,コラム(次頁)でも紹介したように,クライエントの偏見が明らかで,どうしてもクライエントの行動を支持することができないときや,緊急的に危機介入を行わねばならない場合には遺伝カウンセラーによる「説得」が必要になる。また,人はどのようなときに「説得されやすいか」を知っておくことは,クライエントにとって真の自律的な選択をめざす遺伝カウンセラーとしても必要であろう。このような考えから「説得」のポイントを紹介してみた。
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