特集 眼感染症診療ガイド
コラム 眼感染症への取り組み・いまむかし
悲しいアトピー白内障―治療の遅れた術後感染症
桜庭 知己
1
1青森県立中央病院
pp.146-147
発行日 2003年10月30日
Published Date 2003/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410101439
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TMさんは,21歳の学生だった。
幼少時からアトピー性の皮膚炎を患っていた。実家はH市だが,皮膚炎の治療のため,わざわざ隣県のM市のU病院まで治療に行っていた。そして,彼女が15歳の誕生日を迎えた頃から,なんとなく「視力が下がったかな?」と自覚するようになっていた。
受診した近くの開業医から白内障をいわれていたが,われわれの病院にやってきたのはそれから5年後だった。当科初診時の視力は,右眼0.3(矯正不能),左眼0.1(矯正不能)とかなり低下していた。両水晶体前囊には瞳孔領中央に石灰化を伴った混濁があり,いわゆるアトピー性の白内障を呈していて,これが視力低下の原因であった。そのため,眼底ははっきり透見できなかったが,網膜裂孔網膜剝離などの大きな異常はなさそうであった。早速,われわれは手術の有効性と必要性を語り,白内障手術をためらっていると眼底検査に支障をきたし,剝離の発見が遅れ,最悪の場合失明するかもしれないとも話した。しかし,この方が網膜剝離でなく眼内炎で失明に至るとは,その時点では誰も想像していなかった。
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