婦長日誌
悲しい退院
溝口 アツ子
1
1大阪大学医学部病院特殊救急部
pp.41
発行日 1977年6月1日
Published Date 1977/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541206246
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5歳のSちゃんの悲しい退院を見送る.石油ストーブによる44%III度の広範囲熱傷である.前胸部がIII度と重症で,直ちに減脹切開(4か所),気管内挿管の上,人工呼吸器装着,胸腔ドレナージ(3か所)による排液法,これは第21病日死亡の日まで続いた.それに薬浴,ガーゼ交換,特に交換時痛くなるほど握っていた手のふるえが今でも伝わってくるようだ.また読んでやる童話に弱々しくはあったが,笑顔のお返しをくれた.幼児の死をみつめる時ほど,自分たちの無力を腹立しく思う時はない.幼小児の事故の約70%が,ストーブ,または風呂場での熱傷患者である.熱傷面積とその深さと共に重視されるのが年齢であり,それは生命の予後に大きく影響する.このため私たちは新聞紙上で,「家庭での事故防止を」と呼びかけたが,当時一時的な減少をみただけで,今年に入ってすでに6例を経験している.サイレンを鳴らして救急車が入ってきた.母親と,その自殺の道連れにされた子供2人,計3人である.歎いているひまもない.今日も忙がしくなりそうだ.
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