病気のある風景・2
居宅療養の悲しさ
徳永 進
pp.117-123
発行日 1980年2月25日
Published Date 1980/2/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663907417
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なつかしい家
小学生のころまで病弱だったぼくは,ほとんどの夏休みを家で寝て過ごした.4軒の長屋の1軒に6人家族で暮らしていた.だれもいない午後,天井の板のかずや,板の目のかずを何度もかぞえて過ごした.隣の友人の家から牛が‘モー’とないて,自分はひとりでないと感じたりした.
母が買ってくるボーロや,すってくれたリンゴが食べられるのが,病気をすることの唯一の楽しみだった.下痢がとまったり,熱がさがって少しフラフラしながらも外に出て,前の家の幼なじみとソロソロとキャッチボールをして‘フー’とため息をつき,‘でも,治ったかな’と秋の気配の中に感じたりした.
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