連載 他科との連携
奇妙な主訴
大黒 伸行
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1大阪大学大学院医学系研究科視覚科学教室
pp.1364-1365
発行日 2003年8月15日
Published Date 2003/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410101358
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「他科との連携がうまくいった症例」という内容でエッセイ風にまとめてくださいという依頼を受けて,いままでに経験した症例について思いめぐらせてみた。考えてみると,糖尿病や高血圧,血液疾患や自己免疫疾患,脳腫瘍などの脳神経疾患などなど,日常診療でよく遭遇し,他科との連携が不可欠な眼疾患はたくさんある。実際,眼科検査が全身異常発見の端緒となったということはほとんどの眼科医が経験しているのではないだろうか。しかし,今回紹介する症例ほどその主訴が奇妙で最終診断に驚いた症例はなかった。今回,執筆する機会を得たのでぜひご紹介したいと思う。
患者は60歳くらいの女性で,夫と一緒に来院された。主訴は「小さくて細い文字はよく見えるのだが,大きくて太い文字が読めない」というものであった。最初は相手の主訴がよく理解できなかったのだが,よくよく聞いてみると結局は「新聞などはよく読める。遠くの標識も見えるしテレビも問題ない。ただ,ポスターや看板の大きな字が,遠くからだと読めるのだが近づくと読めなくなる」ということであった。この症状は2年ほど前からで,いくつもの眼科で診てもらっており,白内障とか加齢性黄斑変性症とか診断されていたようだが,正直いって本気で相手にされていなかったようである。本人もこの症状が普通ではないことはわかっていたようで,夫もなぜこのような症状が出るのか不安であるとのことであった(確かにこのような尋常ではないことを自分が自覚すれば不安になるのも不思議ではない)。
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