連載 あのころ あのとき 32
あのころから今もなお
岩田 和雄
1
1新潟大学
pp.1352-1354
発行日 2003年8月15日
Published Date 2003/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410101355
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小学校四年生の頃,近くの川で魚釣りに熱中していた。ノーベル文学賞のヘッセも,幼少時は魚釣りに夢中だったというが,それは子供の共通の楽しみであった。やがて大物の鯉釣りに憧れ,挑戦し始めたある日のこと,突然巨大な鯉がかかり,狂気していきなり竿をあげたために鯉が水面に顔を見せたとたん,糸が切れて逃げられてしまった。その口惜しかったこと。そしてまた別の日,あたりがなく釣糸を垂れたままにして遊びほうけているうちに,大きなあたりがきているのを近くにいた友がみつけ,私の代わりに竿をあげたところ,これがまた大きな鯉であった。それ以来,私の竿には二度と鯉はかからなかった。
稀なチャンスを逃してしまうという宿命の糸が今に尾を引いているように思う。大小にかかわらず,新発見にめぐり合う幸運は誰にも訪れるものだ。パスツールは「観察の場では,幸運は待ち受ける心構え次第である」と述べたというが,偶然のチャンスを受け入れる準備の有無が成否の分かれ目となる。
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