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傾向
術中合併症としての虹彩障害について述べるのには,まず術前の虹彩の状態がどうであるかが重要となる。術前の瞳孔径が極大散瞳をしても小さい小瞳孔の場合がまさにそれである。糖尿病患者の症例,偽落屑(pseudoexfoliation)を伴った症例,閉塞隅角緑内障のため縮瞳薬が長期間使用されていた症例,あるいはぶどう膜炎があり虹彩炎の後に虹彩後癒着が生じている症例などは,いくらがんばってみても散瞳薬ではとても十分な散瞳は得られないことが多い。以前はトロピカミド(ミドリンP(R),塩酸フェニレフリン)の結膜下注射などを施行していたこともあったが,最近あまりこうした操作は行われなくなった。
こうした小瞳孔の症例でも,そのままの状態で手術を施行することができる術者はそれで問題ないが一般的でなく,小瞳孔の症例では核硬化が高度なこと,浅前房のこともあること,毛様小帯(チン小帯)が脆弱であることなど,術中合併症の危険因子が存在していることも多く,通常の場合,何らかの方法で瞳孔の拡張操作を行い,術野を広げ手術を施行するのがよい。すなわち小瞳孔の場合,push-pullフックの使用,虹彩リトラクターの使用,瞳孔拡張器の使用,あるいは瞳孔括約筋を切開するなどして,なるべく術者の受けるストレスを減らし,またより安全に手術を進めることが一般的である1~8)。しかし熟練した術者のなかには,瞳孔縁に手を加えず周辺部に虹彩切開術を施行し,そこから超音波乳化吸引術(phacoemulsification and aspiration:PEA)を施行する方もおられる。筆者はこの手法を以前ビデオで拝見したことがあるが,そこまでしなくてもという感じを受けた。ただこれは10年くらい前の報告なので,現在はこうした手技を行っている術者はいないかもしれない。
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