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傾向
デスメ膜剝離は内眼手術操作により角膜実質からデスメ膜が剝がれた状態で,水晶体囊内摘出術,囊外摘出術による白内障手術が主流であった時期には,高頻度に生じる術中合併症であった。Monroe1)は,囊内摘出術を行った120眼について術後に隅角検査を行い43%でデスメ膜剝離がみられたとしている。Austら2)は,囊外摘出術を行った1,163眼中69眼(5.9%)にデスメ膜剝離を生じたと報告している。超音波乳化吸引術による小切開白内障手術が主流になった現在では,高度のデスメ膜剝離の合併は著しく減少した。デスメ膜剝離の多くは強角膜切開創あるいは角膜切開創部に限局しており,通常,デスメ膜剝離の範囲が1mm以内のものであれば,術後短期間で自然治癒することがほとんどである3,4)。しかし,1mmを超えるデスメ膜剝離は何らかの処置が必要であることが多い。剝離が高度であると角膜実質の浮腫をきたし,手術によってもデスメ膜の接着が得られない場合5)や放置した場合は不可逆性の変化を生じ水疱性角膜症になる。
デスメ膜剝離は術中合併症であり,術後に生じることは少ない。術中に生じるデスメ膜剝離は手術器具の挿入時,切れないメスの使用時,粘弾性物質やBSS(balanced salt solution)の注入時,浅前房や前房ができにくい場合などに生じることが多い。術翌日~数週間で高度のデスメ膜剝離を生じることがある。術中に生じたデスメ膜剝離に対して適当な処置を行わずに手術を終了した例で発症する可能性が高く,デスメ膜剝離が広範囲である場合,角膜実質に強い浮腫を生じ前房側は透見できないことがある。角膜内皮障害による白内障手術後の水疱性角膜症との鑑別が重要になってくる。デスメ膜剝離が角膜浮腫の原因のときは水疱性角膜症に比べ比較的急激な視力低下を生じることが多い。前房内が観察できない場合は超音波生体顕微鏡(ultrasound biomicroscope:UBM)により剝離したデスメ膜を確認することができ診断に有用である6)。稀ではあるが,術中特に問題がなかった症例で術後数か月目に両眼に高度のデスメ膜剝離を生じたとの報告もあり7),先天的に角膜実質とデスメ膜の接着が弱い症例が存在する可能性がある。
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