昨日の患者
デスメ膜剥離
pp.26
発行日 1993年10月30日
Published Date 1993/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410901858
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眼科医を20年近くもやっていますと,記憶に残る患者さんの数も蓄積してきます。“夜遅く帰宅するとマンションの1階から5階までそのような患者さんが階段に並んで出迎えてくれた”といった夢を先輩から聞いたことがあります。
さて,白内障手術における忘れ得ぬ症例の一つを紹介します。患者さんは80歳の女性で,過去に周辺虹彩切除術を受けています。前房は浅く,徹照不能の成熟白内障でした。前嚢切開をするべく粘弾性物質を注入,すぐに前房は周辺部まで深くなり,型通りcanopener法を進めました。2/3周を過ぎたあたりで針の動きに合わせて虹彩が少し動くことに気づきました。不審に思いながらさらに2,3切開するうちに背筋が冷たくなりました。恐る恐る粘弾性物質を吸引すると切離されたデスメ膜の無残な鋸状縁が確認できました。頭は空白状態になりましたが,覚悟を決め手術を続行,IOLを挿入,2か月後,角膜移植を施行し,5年後の今も視力0.5を得ています。患者さんの満足も得ましたが,ただ「毎夜毎夜,角膜を頂いた人が枕元に座っているのを何とかして欲しい」と言われ苦慮しています。粘弾性物質注入時のデスメ膜剥離にはくれぐれも御注意下さい。
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