- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
白内障による視機能障害は,一般的には矯正視力の低下で評価されるが,実際には羞明,グレア障害,コントラスト感度低下,高次収差の増加,屈折異常,単眼複視,両眼視機能障害など,さまざまな視機能障害の原因となり,患者の主訴や治療に対する要望は決して単純ではない。角膜と水晶体の眼光学的な特性をみると,若年者では角膜が正の球面収差であるのに対して,水晶体は周辺部の屈折力が相対的に弱く,負の球面収差となっており相補的な関係になっている。しかし加齢とともに水晶体核の硬化や水晶体屈折率の分布の変化などにより水晶体の球面収差も正となるため,眼球全体としての球面収差も増大すると考えられている1)。したがって,白内障手術の適応や効果あるいは合併症を評価する場合には,中心視力の良否のみでなく,水晶体が本来有しているさまざまな光学的・生理学的機能の回復や障害の程度を多元的にとらえる必要性がある2)。また,患者の自覚的・主観的・日常生活の改善度などに関する評価も今後はいっそう重要視されることになると考えられる3)。白内障手術は単に混濁した水晶体を透明な眼内レンズ(IOL)に置換すればよいという単純なものでは決してない。
白内障の有病率は,白内障の定義や対象,人種などによっても異なるが,わが国では初期の混濁も含めると40歳代で29~32%,50歳代で24~54%,60歳代で43~83%,70歳代で60~97%,80歳代以上では98~100%と報告されている4~6)。諸外国の報告でもほぼ同様な有病率が報告されている7~9)。これらがすべて手術適応となるわけではないが,高齢者人口の増加に伴い白内障手術の重要性と手術件数は今後とも増加する可能性が高い。いうまでもなく視機能の質(quality of vision:QOV)は生活の質(quality of life:QOL)の極めて重要な位置を占めている。わが国では年間50万件以上の白内障手術がなされていると推計されているが,本手術が国民の健康的生活の獲得と維持のみならず社会経済的貢献に果たしている意義は極めて高い10)。
近年白内障手術の手技や機器などの進歩は目覚ましく,小切開・超音波乳化吸引・foldableレンズを用いた手術はほぼ完成の域に達したように思われる。実際,国民のなかには白内障手術は“簡便”で,“安全”で,“必ずよく見える”手術との過大で安易な認識が広まりつつある。しかしいうまでもなく,患者の視覚器や全身状態は千差万別であり,同一の術者が同一の手技と機器を用いて行っても常に同じ結果が得られるわけではない。また,手術は人間が行う以上,熟達した術者が行っても一定の確率で術中・術後合併症が生じることは避けることはできない。白内障手術の術前・術中・術後合併症の可能性を常に念頭におき,適切な対処ができる準備を行っておくことが重要である。白内障手術に伴う主な合併症を表1に示す。
Copyright © 2004, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.