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はじめに
硝子体手術の進歩と,それに伴う手術適応の拡大には目をみはるものがあり,硝子体内充填物質の使用は多くの硝子体手術で欠かせないものとなっている。過去長い間,硝子体内充填物質としていろいろな物質が開発され,動物実験あるいはヒトに対する臨床使用を通して,各物質の利点とともに毒性や合併症の検討が行われてきた1~10)。現在,硝子体内充填物質には大きく分けて2通りの使用法がある。1つは,硝子体手術で硝子体を除去した後,網膜を復位させるためにタンポナーデ物質として硝子体腔内に充填される場合で,膨張性ガスやシリコーンオイルなどが用いられている1,2,4~6,10)。もう1つは,巨大裂孔網膜剝離や増殖性網膜症のときに網膜を復位させたり,硝子体腔内に落下した水晶体や人工レンズなどの異物を摘出するために術中のデバイスとして使用される場合で,液体パーフルオロカーボンなどが使用されている4~8)。
理想的な硝子体内充填物質の条件として,透明で眼底の観察が容易であり,眼内で安定し眼圧の上昇がなく,増殖性網膜症や炎症反応を起こしにくく,眼組織に対し毒性をもたず,無菌であり,物質を通してレーザー照射が可能であり,注入や抜去が容易であることなどが挙げられる1~10)が,これらのすべての条件を満たしたうえで,どの部位の網膜にもタンポナーデ効果があり,かつ術中のデバイスとしても使用できる万能の物質は開発されておらず,今後も開発される可能性は少ない。それはタンポナーデ物質として使用するのに適切な物質と,術中のデバイスとして使用されるのに適切な物質の物理化学的性状が異なるからである。そのため,現在は,硝子体術者が各物質の物理化学的性状やそれぞれの物質の長所と欠点を理解したうえで各症例にいちばん適すると考えられる物質を選択し使用している。
ここでは,臨床の場で使用されている物質や,現在までに硝子体内充填物質として考えられてきた物質を,タンポナーデ物質と術中のデバイスに分け,各物質の物理化学的性状を検討し,それぞれ理想の物質はどういうものか考えてみたい。図1,表1に現在までに硝子体内充填物質として考えられてきた代表的な物質の構造と特性を示した。
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