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はじめに
網膜硝子体への薬物移行は種々のバリアにより制限されているため,網膜硝子体疾患に対して従来の薬物療法では十分な薬効を得られない。すなわち,点眼液,眼軟膏などの従来の眼科特有の投与法では,後眼部への薬物移行はほとんど期待できない1)。全身投与においても,血液網膜関門により,薬物移行が制限され,薬効を持続させるため長期間の大量投与を余儀なくされ重篤な副作用が懸念される。このような,網膜硝子体疾患に対する薬物療法の問題を解決するために,薬物放出の時間的制御による薬効持続化の研究が精力的に進められている。薬物の硝子体内への頻回投与が必要な疾患では特に望まれるところであり,後天性免疫不全症候群などの免疫機能低下による眼合併症であるサイトメガロウイルス(cytomegalo-virus:以下,CMV)網膜炎に対する治療研究でめざましい発展を遂げた。
CMV網膜炎に対して,まずガンシクロビル(GCV)やホスカルネットなどの抗CMV薬の内服や静脈内投与が有効であることが報告されたが,時に骨髄抑制や腎障害などの重篤な副作用が問題となる2)。代わって硝子体内へのGCVの直接注入が有効であることが示されたが,硝子体内半減期が短いため有効濃度を長期間維持するためには頻回投与が必要となる3)。このような背景から,投与頻度を減らす目的で,マイクロスフェア4),リポソーム5)などの微粒子キャリアに抗CMV薬を包含させ,1回の硝子体内投与で有効濃度を長期間維持させる試みも検討されているが,微粒子懸濁液により中間透光体としての硝子体を一時的に混濁させること,粒子径によっては容易に網膜上に沈降し,接触した神経網膜に対し長期間薬物を暴露させるリスクも考えられる。
Ashtonらのグループは,GCVを長期間放出する硝子体内ぶら下げ型の硝子体内インプラントを開発した6)。これは,現在市販されているVitrasert(R)のプロトタイプである。Vitrasert(R)はGCVを5~8か月間安定に放出させることが可能である。また,最近,Vitrasert(R)より小型であるが同様な方法で移植する,非感染性ぶどう膜炎治療薬のフルオシノロンアセトニド含有硝子体内ぶら下げ型インプラント(Retisert(R))が,FDAから承認を受けた。Retisert(R)は30か月以上にわたり安定な薬物放出を達成する。しかしながら,これら硝子体内ぶら下げ型インプラントにおいては,投与時に比較的大きな強膜創をつくる必要があること,またいずれも非分解吸収性材料から構成されており,薬物放出完了後のインプラント除去および再投与時に複雑な手術が必要とされる。
一方,上記2種の非分解吸収性の硝子体内ぶら下げ型インプラントに対し,生体内分解吸収性高分子であるポリ乳酸(PLA)からなる硝子体内留置インプラント(Posurdex(R))が糖尿病黄斑浮腫を対象にして現在治験が進められている。Posurdex(R)は微小な円柱状インプラントでデキサメタゾンを1か月程度徐放する製剤である。
理想的な網膜硝子体ドラッグデリバリーシステム(DDS)としては,低侵襲で投与できること,1回の投与で長期間薬効発現有効濃度を維持できること,投与製剤による視機能への影響がないこと,などが挙げられる。
筆者らは,これまでに網膜硝子体疾患に対するDDSの開発に取り組んできた。まず,硝子体手術時に作製する強膜創を利用し,ここに製剤を留置することを考え,手術時に使用されるチタン製強膜プラグを模倣した,生体内分解吸収性高分子から構成される強膜プラグを考案した。次に,強膜を半創切開し作製した強膜ポケット内に留置する強膜内インプラントを考案した。また,さらに低侵襲製剤とし,網膜剝離手術時に使用される黄斑プロンベに類似した構造を有し,眼外から強膜を介し後眼部網脈絡膜へ薬物を送達させる,上強膜インプラントを考案した。本項においては,筆者らが検討を進めてきたこれら3種の網膜硝子体DDSについて紹介する。
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