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はじめに
眼科疾患,特に網膜硝子体,脈絡膜疾患の薬物療法を考える場合,網膜血管関門などの存在による薬物の眼内への移行性の低さがしばしば問題となる1,2)。薬物の全身投与において,網膜,硝子体など標的となる眼内組織で薬物を有効濃度で作用させるためには,しばしば大量投与や頻回投与が必要となる。それでも薬効を得るのは時として困難であり,かつ他の正常組織への副作用が懸念され,しばしば投与中止の原因となる。網膜硝子体,脈絡膜疾患の1例として加齢黄斑変性における脈絡膜新生血管をとってみると,欧米諸国の成人失明の主要原因疾患であることもあり,これまで,全身投与による薬物療法のためにさまざまな薬剤が開発されている。臨床試験である程度の効果が期待されるものの,効果が十分とはいえず,その結果,別の新薬の開発に各製薬会社が精力を注ぎ込んでいる。しかし,製剤において,前述の薬剤の標的組織への移行性,効率についても念頭におくべきではないだろうか。
薬物開発の経緯は,in vitroにおける血管内皮細胞の増殖,遊走,管腔形成などに対する新しい血管新生阻害薬の抑制効果の評価に次いで,ラットの角膜新生血管モデルなどを利用して,局所投与の系でその効果が試される。次に動物実験レベルでの評価が行われるが,再現性の高い優れたモデルを欠くのが現状の問題点である。最終的に,有意差の出た薬剤が臨床試験で試されるのであるが,インターフェロン(IFN)αやサリドマイドは最終的に有効な結果を得られなかった3,4)。全身投与の系で,仮に,他の正常組織に有害でない投与量や投与頻度で標的組織における薬物有効濃度を保つことが不可能であるとすると,残念ながら結果は同じようなものになると予想される。こういう背景もあり,現在,anecortave acetate,VEGF aptamer,ranibizumabなどの臨床試験中または予定の薬剤は経テノン囊下球後注射または硝子体内注射による治療効果を検討されている5)。しかしながら,経テノン囊下球後注射は比較的患者の負担が少ないとしても,先に確立されているベルテポルフィン(verteporphin)による光線力学療法より効果,副作用などの点で優れた部分がない限り,使用する意義は乏しくなると考えられる。
薬剤の全身投与の系で,標的組織に対する薬効を向上し,副作用を軽減するための1つの活路として,ドラッグデリバリーシステム(drug delivery system:DDS)の一体系である薬物標的指向化(ターゲティング)の応用がある。薬物ターゲティングとは,薬剤に他の分子を修飾,または光線,電気,磁気などの外部信号を利用し,薬物動態または薬効を空間的,時間的に制御し,標的組織への効率的な薬物送達,薬効獲得を目的とする技術体系である。ベルテポルフィンによる光線力学療法も一種の薬物ターゲティングである。
薬物ターゲティングは,受動的ターゲティングと能動的ターゲティングに分類される。受動的ターゲティングとは,薬剤に水溶性高分子などを担体(キャリア)として修飾することにより,薬物動態をこれらキャリアの物理化学的特性に従った体内動態に改良することで得られる。一方,能動的ターゲティングは,抗原と抗体の関係のように,標的組織に発現した抗原など特定部位と生物学的親和性を示す分子をキャリアとするか,磁気と磁性体,光線と光感受性物質など,外部信号とそれに反応する物質の組合わせで標的組織をターゲットするなど,より特異的なターゲティングである。
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