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わが国の中途失明疾患の上位には,緑内障,糖尿病網膜症,加齢黄斑変性(age-related macular degeneration:AMD)および網膜色素変性症が挙げられる。これらの疾患は,いずれも網膜に変性を生じ,その病態が進行すると最終的に失明に至る。しかし,それらの病態の発症・進行機序については十分には解明されておらず,根本的な治療法も存在しない。近年,これら網膜疾患のなかで脈絡膜新生血管を伴う滲出型AMD(neovascular AMD:nAMD)および糖尿病網膜症に伴う黄斑浮腫の病態形成に血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)が主要な役割を果たしていることが明らかになり,VEGFを標的とした抗VEGF薬(ペガプタニブ,ラニビズマブ,アフリベルセプト)が開発された1)~3)。これら抗VEGF薬は,これまで有効な治療手段のなかった網膜疾患領域に目覚ましい治療効果をもたらした。これらの治療法は,薬剤を網膜に送達させる必要があるため,いずれも硝子体内に直接針を刺して薬剤を投与する硝子体内注射(IVT)により行われる。このように網膜疾患の薬物治療は,IVTが主流となり,網膜への薬剤の送達手法(ドラッグデリバリーシステム:DDS)として広く用いられるようになっている。しかし,IVTは手術に準ずる侵襲的な治療手段であり,現在のところ上記疾患の治療のために1または2か月に1回の頻度で,そして多くの場合,長期間にわたる治療が必要とされる4)。IVTは,全身的な副作用のリスクを軽減し,後眼部の病変に対してより強く治療効果を引き出せる反面,眼内炎,眼圧上昇,外傷性白内障,硝子体出血,網膜裂孔・剥離,白内障,結膜下出血,結膜浮腫などのリスクを伴う。したがって,硝子体注射にはより半減期および投与間隔の長い薬剤が求められており,眼内滞留性および徐放性の優れたDDS製剤の開発研究が進められている。本稿では,網膜疾患治療を目指した後眼部DDSについて紹介する。
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