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眼科学は本来その診断と治療に,大変広い分野の生命科学者や物理学者の研究とそれを可能にした工学の技術が融合して発展した医学領域である。その傾向は20世紀最後の四半世紀に開発,普及し眼科学を一変させた「白内障」に対する外科的な治療法に端を発し,硝子体手術,診断機器の開発にみることができる。それらは眼科学の求める診断機器の開発,それによって得られる科学的知識と,それに基づいて視機能を回復させるための外科的装置の開発など科学と工学・技術が融合した成果であったし,その普及には折からのIT技術の普及が大きく貢献した。
白内障全摘術(囊内摘出術)を「水揚げ」と称して医局を挙げてお祝いしてくれた時代に入局し,眼内手術に入門した筆者にとっては,眼鏡を処方し,患者に不同視とビックリ箱現象を説明し装用訓練をしてからの退院で初めて手術が終了したことになった。当時はそれが当たり前で,白内障手術を受けたお年寄りは一目でわかった。その後の30年間で起きた変化は,折からの高度成長期と重なり,白内障で視力が低下していることを我慢していなくてよくなったことが第一であるが,矯正法も眼鏡からコンタクトレンズに,それも1週間連続装用できるソフトコンタクトに替わり,さらに革命的な「眼内レンズ」とその挿入法が開発され,普及した。眼内レンズの普及にまつわる思い出はさまざまである。当時ヒアルロン酸の開発はまだ途上で,前房を空気で満たし,前房操作で容易に抜けてしまう状況の下に,眼内レンズを挿入するだけでも大変であったが,虹彩切除のスペースで虹彩を挟んで4ループの前後ループを縫合することは容易ではなかった。しかし筆者が初めて挿入させていただいた老人はジョギングや水泳がお好きで,「おかげさまで続けられます」と大変喜ばれたのをよく覚えている。
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