巻頭言
これからの精神科医—21世紀へ向けて
田代 信維
1
1九州大学医学部精神神経科
pp.796-797
発行日 1991年8月15日
Published Date 1991/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405903089
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また新卒の研修医が入局してくる。毎年のことであるが,病棟では1,2年目の研修医が看護婦から,見立てが悪いとか,薬の使い方が間違っているとか,小言を言われ,悪戦苦闘する。ときに駆け出しの研修医がベテラン看護婦からやり込められて,勝ち目がなくなり,「医者の裁量に口出しするな」と反発したりする光景をみる。家庭で適応できない患者も,入院すると病棟内で落ち着き,精神的に安定してくる。これは看護婦の対応によるところが大きい。特に精神科の入院看護は,他科の入院看護に比べ,人間関係のきずなによるところが大きく,看護婦が“治療”にかかわる比率が高いように思える。それだけに,看護婦の看護と医師の医療との間に摩擦が起こりやすいのかもしれない。そうだとすると,入院治療における医師の役割の設定が問題となる。
入院する患者の多くは,家庭内適応も困難となった場合であり,治療目標は,家庭内適応,さらには社会復帰にある。特に慢性精神分裂病にあっては,社会復帰に苦慮するところである。社会復帰施設として,援護寮,福祉ホーム,授産施設などが用意されている。しかし,これらは精神科医療ではなく,社会福祉事業の一環である。とはいえ,患者への精神科医のかかわりは深く,社会適応性の向上のためには,これまで以上に,積極的働きかけが必要であろう。外来通院治療での精神科医の役割もまた大きい。
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