- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
アレルギー性結膜疾患はいずれも,結膜におけるⅠ型アレルギー反応によって引き起こされる疾患である。すなわち抗原提示細胞,肥満細胞,T細胞,B細胞および好酸球によって起こる免疫反応である。このⅠ型アレルギー反応は原則として全身いずれの組織においても同様のメカニズムで生じると考えられる。しかしながら,眼表面,気道,鼻粘膜,皮膚で起こるⅠ型アレルギー反応による疾患は臨床的にそれぞれアレルギー性結膜疾患,喘息,アレルギー性鼻炎およびアトピー性皮膚炎として表現され,それぞれの疾患における自覚症状および他覚所見もまったく異なっている。この臨床的表現型の差異は純粋な解剖学的特徴によって起こる一面もあるが,その組織を構成している固有の細胞,すなわち上皮細胞や線維芽細胞などの特異的な反応様式が影響している可能性も考えられる。またアレルギー性結膜疾患のなかにおいてさえも,アレルギー性結膜炎と春季カタルでは,炎症の程度の差だけでなく,結膜の増殖性病変や角膜障害などまったく異なった病像を呈する。これらの病像の差異は,単なるアレルギー反応のみで終わるか,アレルギー反応に引き続いてその組織固有の細胞が活性化されて,二次的な炎症反応を形成するかによって規定されると考えられる。
全身の組織に存在する線維芽細胞は,間葉系由来の細胞である。これまで線維芽細胞は細胞外マトリックスの代謝を行い,組織のintegrityを保つ役割だけの細胞で,炎症反応では一方的に攻撃を受けると考えられていた。しかしながら,近年では線維芽細胞は種々のサイトカインやケモカインなどの生体活性物質を産生し,また接着分子などを発現することで炎症の増悪,遷延化に重要な役割を果たしていることが解明されつつある。また,線維芽細胞は全身の各組織において均一の細胞集団ではなく,線維芽細胞の存在する組織や炎症の有無などにより,その性質が大きく異なることも明らかとなってきている。本稿では,結膜および角膜の線維芽細胞がアレルギー性結膜疾患,特に春季カタルにおける結膜増殖性病変や角膜障害の形成にどのようにかかわっているか概説する。
Copyright © 2005, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.