今月の臨床 産科と凝固異常
凝固異常理解のための新知見
1.分子生物学からみた凝固線溶系の機能
三室 淳
1
1自治医科大学 血液・止血血栓
pp.264-270
発行日 1998年3月10日
Published Date 1998/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409903194
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臨床検体として血液が容易に採取できるため,凝固線溶系は研究の進歩も体系化も速くすすんできた.検査方法の確立,凝固因子欠乏症の発見,凝固因子の精製,純化系での凝固線溶系の再構築,分子同士の相互反応,凝固因子のcDNAクローニングと一次構造の決定,凝固因子遺伝子のクローニング,変異分子の作成と結晶解析から分子構造と機能の解析へとin vivoからin vitroへ,またマクロからミクロへとの方向に進んできた.分子生物学の進歩により,凝固線溶系因子のトランスジェニックマウス(ある遺伝子を臓器特異的に発現させたマウス)やノックアウトマウス(ある遺伝子を特異的に働かなくしたマウスで,凝固系でいえば先天性凝固因子欠損症マウス)をも得られるようになり,再びミクロからマクロへin vitroからin vivoへとの流れがでてきた.最近のノックアウトマウスの報告からは予想だにしなかった結果もあり,凝固線溶系が血管内で働くばかりでないことがわかってきた.
先天性凝固因子欠乏症など,ヒトでの疾患があきらかであるのに,なぜ同じ疾患モデルマウスが必要なのかという疑問もあると思われるが,生体内での生理的役割の検討やヒトではとてもできないような詳細な病理学的検討ができるだけでなく,生体のもつ種々の生体反応の相関関係や重複性(redundancy)を解き明かすうえでも新たな手がかりを与えてくれると考えられる.
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