今月の臨床 着床
着床はどこまでわかったか
2.子宮からみた着床
小辻 文和
1
,
紙谷 尚之
1
,
富永 敏朗
1
1福井医科大学産科婦人科
pp.22-27
発行日 1997年1月10日
Published Date 1997/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409902797
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着床は,胞胚と内膜のシグナル交換と協調的相互作用により,両者の着床準備態勢が整い同調した時に開始し進行する.着床前の子宮腔には豊富な子宮腔液が存在し,胚の栄養源,胚と内膜由来の相互情報交換に働くシグナル物質など着床開始に重要なさまざまな因子が含まれる.着床開始にあたり,子宮腔液は内膜上皮細胞に取り込まれ極度に減少し,子宮腔は狭小化し前後壁で胞胚が固定される.
着床時の内膜の変化は,炎症,創傷治癒にたとえられる.組織破壊,細胞増殖・分化,組織再構築,血管透過性充進,血管新生,骨髄由来細胞集積,局所の細胞増殖因子・サイトカイン産生などが起こるからである.また,トロホブラストと内膜の相互関係は,悪性腫瘍細胞の浸潤にたとえられる.しかし炎症,創傷治癒,腫瘍浸潤との相違は,着床は生理的に調節された現象であるという点である.ヒトの場合は胞胚は内膜上皮に接着した後,トロホブラストは内膜上皮細胞の間を押し分けて基底膜に達し,これを貫通し,間質基質,すなわち細胞外マトリックスを分解し内膜深部へと侵入する.トロホブラストは,活発な細胞外マトリックス分解酵素,とくにmatrix metallo—proteinase(MMP)の分泌と活発な細胞運動により浸潤性を発揮する.内膜は,トロホブラストの侵入を受け入れ,胚の発育を促し,妊娠成立と維持に働く安定した微小環境を形成する.
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