今月の臨床 着床障害―生殖医療のブラックボックス
子宮内膜症と着床障害
谷口 文紀
1
,
原田 省
1
1鳥取大学医学部生殖機能医学
pp.834-839
発行日 2010年5月10日
Published Date 2010/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409102383
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はじめに
胚着床過程には胚と子宮内膜の適切な相互作用が必要である.子宮内膜と胚由来の多くのサイトカイン,増殖因子,接着因子,酵素などのさまざまな生理活性物質が,局所因子として胚着床を調節することが知られている.体外受精をはじめとする補助生殖医療(assisted reproductive technology : ART)の進歩により,胚発育過程は顕微鏡下に可視化され,胚発育不全の診断が可能となった.しかしながら,依然として胚移植当たりの妊娠率は高いとはいえず,形態良好胚を複数回移植したにもかかわらず妊娠が成立しない着床不全という概念が顕在化している.着床不全はその病態の把握が難しく,効果的な治療法もきわめて乏しいことから,不妊治療における最重要課題といえる.
一方,子宮内膜症は不妊症を高率に合併することから,女性のquality of lifeを著しく損なう疾患である.晩婚化が進み,生殖年齢の女性が妊娠に至るまでの期間が長くなるとともに,妊娠回数が減少している.この結果,月経回数が増加して内膜症発生の機会が増加すると考えられる.内膜症合併不妊の発生機序についてはいまだ明らかではないが,本症の存在が胚着床に悪影響を及ぼすことで妊孕能が低下することが示唆されている.すなわち,内膜症合併不妊患者では,子宮内膜因子あるいは胚-内膜相互因子の機能不全の結果として,内膜の胚受容能が低下していることが推察される.
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