特集 着床
着床の免疫学的側面
富永 敏朗
1
,
佐々木 博正
1
,
長谷 光洋
1
,
根上 晃
1
Toshiro Tominaga
1
1福井医科大学産科婦人科学教室
pp.47-52
発行日 1990年1月10日
Published Date 1990/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409904816
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ヒトでは受精卵は初期発生を経て胞胚となり,受精後6〜7日に準備態勢の整った子宮内膜上皮と接着が始まりトロホブラストの浸潤の進展に伴い約1週間で卵全体は脱落膜化した内膜間質内に埋没し着床が完了する。着床前から着床まで卵と母体卵管・子宮内膜の間には微妙な相互作用が存在し,着床は両者の円滑なdialogueによって成立するものと考えられる。しかし着床期前から着床期さらにその直後の時期には種々の原因によって卵の死滅が起こっているものと思われる。卵の異常をはじめ,卵管・子宮内膜など母体内性器の異常,母体内性器を調節する内分泌機能の異常,卵・母体内性器を調節する内分泌機能の異常,卵・母体間の免疫学的相関の異常などが原因としてあげられるが,着床周辺期の検索の困難性のために不明の点が多い。
妊娠は移植免疫学的には半同種移植片とみなされる胎児胎盤が母体によって拒絶されることなく生着,増殖するという点で古くから注目されてきた。近年の免疫学の進歩によって免疫学的側面からみた母児相関の妊娠維持機構が明らかにされつつあり1),これらの知見が臨床応用されるに至った2)3)4)。妊娠の免疫学的維持機構については内外に多数の総説が発表されているが,本稿では特に着床周辺期に焦点をしぼって考察する。この時期の母児相関の免疫は胚の抗原性,胚を取りまく環境因子,胚と子宮内膜との免疫的情報交換,子宮内膜の免疫担当細胞などに特徴的な変化がみられ,着床の生理的な機構ならびに着床周辺期の卵の死滅,すなわち着床障害に密接な関係があると考えられる。
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