症例
妊娠中,意識障害ではじめて診断されたIDDMの1例
蔵本 昭孝
1
,
堀 大蔵
1
,
山中 秀紀
1
,
中島 洋
1
,
畑瀬 哲郎
1
,
薬師寺 道明
1
1久留米大学医学部産婦人科
pp.1209-1212
発行日 1996年9月10日
Published Date 1996/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409902672
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
妊娠33週4日に軽度の意識障害を伴った糖尿病の1例を経験した.症例は26歳女性,家族歴に実父が糖尿病である.妊娠後は近医で検診を行っていたが,妊娠初期・中期は尿糖の出現もなく,胎児発育は正常で,とくに異常を認めなかった.妊娠33週頃より嘔気,嘔吐が出現,その後,口渇感,多飲,多尿が加わり妊娠34週2日に軽度意識障害が出現したため,近くの救急病院を受診した.そこで高血糖を指摘され当院救命救急センターに緊急搬送された.臨床検査所見で糖尿病性昏睡と診断し,インスリン療法を開始した.同時に胎児仮死を認めたため緊急帝王切開を施行し,生児を得た.術後精査で尿中C-peptide,およびグルカゴン負荷後の血中C-peptideは,低値を示し,さらにその経過よりインスリン依存性糖尿病(IDDM)と診断した.本例ではHLA-DR4が認められたが,膵ランゲルハンス島細胞抗体(ICA),グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)抗体は陰性であった.本邦での妊娠後期のIDDM発症はまれではあるが,いったん発症するとその内分泌および血液学的病態の変化により胎内環境の悪化がみられ,子宮内胎児死亡に至る場合がほとんどである.今回の症例では早期に発見され病態の進行が軽度であったため,生児を得ることができた.この詳細を報告するとともにIDDMの妊娠に及ぼす影響,および妊娠のIDDM発症に及ぼす影響について考察を加えた.
Copyright © 1996, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.