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飽食時代といわれるこの現代では肥満は一般に忌むべき状態と考えられ,少なくとも思春期の女性は常に肥満になる事を気にかけている。この事が逆にやせる事は美的な事と誤解し,不必要なやせ願望が生じる。このようなやせに対する願望,あるいはあこがれが時として不必要な食餌制限すなわちダイエットへとつながる風潮がみられる。市販されている女性対象の雑誌にはいかにしたらやせられるかという体験談や食事メニューの紹介が繰り返し掲載されている事からも,いかに若い女性がこの事に神経をつかっているかがうかがい知れる。
一般に肥満者がやせて標準体重にいたる事は健康上,あるいは美容上推奨されるべき事である。しかし問題は思春期の女子では客観的にみて肥満でもないのによりスマートになろうとダイエットに努力し,過度の体重減少をはかることである。時には標準体重にあるのにさらにやせようと努力する例もある。しかも体重減少を急激にストイックに行う傾向があり,そこに問題が生じる1)。すなわち急激な過度の体重減少は主に視床下部を障害し,その結果gonadotropin分泌を抑制する。その結果それでなくても,いまだ完成途上にある間脳−下垂体−卵巣系のホルモン分泌の失調をきたし排卵障害,臨床的には続発性無月経にいたる。これは体重減少性無月経とよぼれるものである。従来,著明な食行動異常(主に極端な少食やかくれ食いなど)に伴う続発性無月経は神経性食欲不振症anorexia nervosaとして有名であるが,最近の種々の検討より体重減少性無月経はこれと別個の病態として区分し考えられるようになってきた2)。anorexia nervosaは続発性に無月経にいたるため産婦人科を受診する事も多いが,その本態の中枢は心身医学的領域に属するものである。一方,体重減少性無月経は環境性無月経などと同様,産婦人科がその治療の主体となる疾患である。従って本稿では体重減少性無月経に限り治療法について述べてみたい。繰り返しになるが,やせていること,あるいはやせること自体が問題なのではなく,これにより月経異常にいたることが問題であり,治療の対象となるのである。
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